弁護士伊東結子のブログ - つきのみや法律事務所|埼玉県さいたま市の弁護士

つきのみや法律事務所|埼玉県さいたま市の弁護士

弁護士伊東結子のブログ

養育費,このままでいいの? ~その4

2019年7月27日 13:03|つきのみや法律事務所|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

前回のブログでは, 養育費の算定において養育費を支払う側の生活費が多めに考慮されていることの具体例として,「職業費」の問題を取り上げました。
今回は,この「職業費」に,給料を得るために必要な経費ではないものが含まれてしまっているという問題について解説したいと思います。

前回のブログでご説明したとおり,養育費を支払う側が給与所得者(公務員や会社員など,給料を得て生活をしている方)の場合,基礎収入を計算する上で,総収入(税込みの支払総額)から,給料を得るために必要な経費=「職業費」が差し引かれています。
そして,この「職業費」は,「被服および履き物」「交通」「通信」「書籍・他の印刷物」「諸雑費」「こづかい」「交際費」の7費目の合計であるとされています。

前回のブログで,職業費として考慮される金額が高すぎるという問題を紹介しましたが,計算上,職業費が高額になってしまうのには理由があります。
それは,給料を得るために必要な経費とは言えない費用(養育費を支払う側が負担するものではない費用)が,職業費の中に含まれてしまっているからです。

上記のとおり,「職業費」は,「被服および履き物」「交通」「通信」「書籍・他の印刷物」「諸雑費」「こづかい」「交際費」の7費目の合計です。
そして,この7費目の金額は,総務省統計局の「家計調査年報」における統計値(※)が用いられているのですが,「被服および履き物」以外の6つの費目について,世帯全体の支出額を職業費であるとしてしまっているのです。
※統計値=「家計調査年報」第四表「年間収入階級別一世帯当たり年平均一か月間の収入と支出(勤労者世帯)」の平成10~14年の平均値

つまり,「交通」「通信」「書籍・他の印刷物」「諸雑費」「こづかい」「交際費」の6費目については,給料を得るために必要な経費とは言えない費用(例えば,統計上は「交通費」に分類される子どもの通学費や,「書籍」に分類される子どもの参考書代など)も,世帯全体分をざっくりまとめて「職業費」であるとして,養育費の算定において考慮してしまっているのです。

このように,給料を得るために必要な経費とは言えない費用が考慮されることにより,養育費を支払う側の基礎収入が現実より低く算出され,結果として,養育費が低く算定されることにつながってしまいます。
養育費算定の考慮要素である「職業費」には,このような問題があるのです。

次回のブログでは,現在の算定表の最大の問題点とも言われる「特別経費」(住居費の考慮)についてご紹介をする予定です。

(弁護士 伊東結子)

養育費,このままでいいの? 〜その3

2019年6月13日 11:37|つきのみや法律事務所|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

前回のブログでは,養育費の金額を決める際の重要な資料である「算定表」の問題点として,古いデータに基づいて計算された結果が現在もそのまま使われていることを紹介しました。

今回は,「養育費を支払う側の生活費が多めに考慮されている」ことの具体例として,「職業費」の問題を取り上げたいと思います。

養育費の算定において,「養育費を支払う側の基礎収入が少なく計算されてしまうと,算定される養育費の金額も少なくなってしまう」という仕組みは,前回のブログで説明したとおりです。
そして,養育費を支払う側が給与所得者(公務員や会社員など,給料を得て生活をしている方)の場合,基礎収入を計算する上で,総収入(手取り収入ではなく,税込みの支払総額)から,生きていく上で必要な経費の一つして「職業費」が差し引かれています。

さて,「職業費」とは何でしょうか。
算定表が作成された当時の解説(判例タイムズ1111号294ページ)を見ると,職業費とは,給料を得るために必要な経費のことであり,「被服および履き物」「交通」「通信」「書籍・他の印刷物」「諸雑費」「こづかい」「交際費」の7費目の合計であるとされています。

「こづかい」や「交際費」が,養育費の算定において考慮されるのか!と怒りを感じた方もいらっしゃるかもしれませんが,そのことよりも問題なのは,職業費として考慮されている金額が高すぎるということです。

養育費の算定において,職業費は総収入の約20%とされています。つまり,総収入の約20%は,養育費の算定から取り除かれているということです。
平成29年(2017年)分の民間給与実態統計調査(国税庁)によると,養育費を支払う側になることが多い男性の給与所得者の平均年収(総収入)は532万円ですので,平均年収程度の収入を得ている方の場合,年に約104万円(月に8万6000円)もの金額が「職業費」として養育費の算定から取り除かれていることになります。

平均的な会社員が,給料を得るための経費として,月に8万6000円もの出費を必要とするでしょうか。
会社員であれば,交通費は会社から支給されることが多いですし,会社の携帯電話を持たされることもありますよね。上記のとおり,職業費には,「交通」「通信」という費目も含んで計算されてしまっていますので,これだけでも会社員の実態と合っていないことが分かります。

そして実は,この「職業費」には,給料を得るために必要な経費とは言えないものが含まれてしまっています。
次回のブログでも,「職業費」の問題点を続けてご紹介します。


(弁護士 伊東結子)

養育費,このままでいいの? 〜その2

2019年4月26日 09:47|つきのみや法律事務所|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

前回のブログでは,養育費の金額を決める際の重要な資料である「算定表」の大きな問題点が,「養育費を支払う側の生活費が多めに考慮され,子どもを育てている側の負担が十分に考慮されていない」ことにあると指摘しました。

今回から数回にわたって,「養育費を支払う側の生活費が多めに考慮されている」という問題の具体的な内容を説明したいと思います。

算定表は,以下の5段階の認定・計算を経て算定された結果を表の形式にしたものです。「義務者」というのは養育費を支払う側,「権利者」というのは養育費を受け取る側のことです。
① 義務者・権利者の基礎収入を認定する。
② 義務者・権利者及び子それぞれの最低生活費を認定する。
③ 義務者・権利者の分担能力の有無を認定する。
④ 子に充てられるべき生活費を認定する。
⑤ 子の生活費を義務者・権利者双方の基礎収入の割合で按分する。

この①の段階にある「基礎収入」は,総収入(手取り収入ではなく,税込みの支払総額)から,公租公課(税金や社会保険料)・職業費・住居費などの「生きていく上で必要な経費」を差し引くことで算出されています。
養育費を支払う側の基礎収入が少なく計算されてしまうと,算定される養育費の金額も少なくなってしまうため,基礎収入を適切に認定することはとても大切です。

しかし,現在の算定表では,養育費を支払う側の「生きていく上で必要な経費」が適切に考慮されているとは言えません。
例えば,公租公課(税金や社会保険料)は,算定表が作られた当時の税率や保険料率に基づいてあてはめが行われていますが,算定表が作られたのは2003年。このブログを書いているのは2019年ですから,15年以上前の税率や保険料率で計算された結果を今も変わらずに使っていることになります。

古いデータに基づいて計算された結果を「適正」と言われても,納得がいきませんよね。

次回は,謎の考慮要素である「職業費」に焦点を当てて説明したいと思います。

(弁護士 伊東結子)
 

養育費,このままでいいの? 〜その1

2018年12月12日 13:21|つきのみや法律事務所|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

前回までのブログでは,養育費の金額を決める際の重要な資料である「算定表」の見方について,夫婦の収入源が何であるかによってケースを分けて説明してきました。
現時点での家庭裁判所の実務(家庭裁判所でどのように養育費を決めているか)が分かったところで,今回からは,現在の算定表の問題点を解説していこうと思います。
その上で,それらの問題点を可能な限りクリアした「新算定表」(日本弁護士連合会が2016年11月に発表した新しい算定表)をご紹介したいと思います。

 現在の算定表で養育費を計算した時,ほとんどの方は,「こんな金額じゃ,子どもを育てられるわけない!」と思うのではないでしょうか。私もそう思います。
では,なぜ,そんな金額が算定されることになるのでしょうか。

法律上,養育費の支払い義務は,「子どもを育てるのに必要な全ての費用を負担する義務」ではありません。
養育費の支払い義務は,「生活保持義務」=自分の生活を維持するのと同程度の生活を子どもにも維持させる義務 であるとされています。
養育費の支払い義務を負う親(子どもとは一緒に暮らさない親)にも,その親自身の生活があり,それぞれの収入に見合った生活費が必ずかかります。養育費は,養育費の支払い義務を負う親自身にかかる生活費を考慮した上で,親の生活レベルと同程度の生活レベルを子どもに保障しましょう,という考え方に基づいて計算されるのです。

現代の子育てには,習い事や塾代,携帯電話代…。本当にいろいろな費用がかかりますよね。
けれど,残念ながら,養育費の支払いは,子どもを育てるのに必要な費用の全額を保障するために行われるのではなく,養育費の支払い義務を負う親自身の生活費を考慮した上で,親の生活レベルと同程度の生活レベルを子どもに保障するために行われるものなのです。
養育費の支払い義務を負う親自身が生活できなくなってしまっては,養育費の支払いが止まってしまうことになりますから,親の生活レベルや親自身の生活費が考慮されるのはやむを得ないことです。

では,現在の養育費の算定(算定表)において,「養育費の支払い義務を負う親自身の生活費」や「親の生活レベル」は,適切に考慮されているのでしょうか。
現在の算定表は,ここに大きな問題点があります。
養育費を支払う側の生活費が多めに考慮され,子どもを育てている側の負担が十分に考慮されていない。これが現在の算定表の大きな問題点です。

次回以降,この問題点をかみ砕いて説明していこうと思います。

(弁護士 伊東結子)

養育費はどうやって決めるの?・その5

2018年10月26日 10:48|つきのみや法律事務所|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

前回のブログでは,養育費の金額を決める際の重要な資料である「算定表」の見方について,夫婦のいずれか(もしくは両方)が年金生活者の場合を取り上げて具体的な説明をしました。
今回のブログでは,夫婦のいずれか(もしくは両方)が無職(無収入)の場合について,算定表の見方(「年収」の考え方)を詳しく説明します。

 ※算定表で養育費を計算するにあたって必要になるデータや,算定表における「義務者」「権利者」の意味,算定表の縦軸・横軸の数字へのあてはめについては,前回までのブログをご参照ください。

夫婦のいずれか(もしくは両方)に収入がない場合は,収入がないことの理由によって「年収」の考え方が異なります。以下では,無収入の理由別に「年収」の考え方を説明します。

1 子育て中で働けない
育児のために働くことができない方で,子どもがまだ乳幼児という場合は,年収はゼロと考えて養育費を算定します。
子どもが小学生以上になると,「子育て中で働いていないので年収はゼロ」という取扱いは難しくなります。これは,養育費の算定における「年収」は,実際の年収額だけでなく,「稼働能力」を考慮することになるためです。「稼働能力」については,詳しくは次の項目で説明しますが,子どもが小学生以上になると,子育て中で働いていないという方であっても,パート程度の収入(年収100万円程度)を得る能力はあるものとして,養育費の算定が行われることになるのが一般的です。

2 求職中で収入がない
養育費の算定を行う時点ではまだ職が決まっていないため収入がないという場合は,養育費の算定における年収をゼロとは考えません。働いて収入を得る能力(これを「稼働能力」と言います)があるのであれば,働いた場合に得られる年収の見込み額を,養育費の算定における年収と仮定することになります。
具体的には,①直近2〜3年の収入資料(給与明細など)から年収の平均値を計算したり,②それまでの職歴を参考にしたり,③賃金についての統計(賃金センサス)から性別や年齢・学歴に見合った平均的な賃金を導き出したりします。

3 ケガや病気で働けない
ケガや病気で働けず,養育費の算定を行う時点では復職できていないため収入がないという場合は,そのケガや病気による休職が一時的なものであり,復職が確実に見込めるのであれば,復職した際の収入を養育費の算定における年収と仮定することになります。
ケガや病気が重く,復職の見込みが確実ではないという場合は,傷病手当など,養育費算定の時点での収入を基礎に計算せざるをえません。こういった場合は,復職後に改めて養育費の増額を求めることになります。

夫(もしくは妻)に収入がないからといって,養育費の支払い義務が必ずゼロになるわけではありません。ぜひ,あきらめずに一度ご相談ください。

次回は,日本弁護士連合会が2016年11月に発表した新しい算定表(いわゆる「新算定表」)について説明する予定です。

(弁護士 伊東結子)

1  2  3  4

ページ上部へ